コラム

「一日一題」山陽新聞夕刊掲載

文:菅原直樹

中学の頃にTHE BLUE HEARTSを聴くようになってから、ずっとロックンロールにだまされ続けている。「常識にとらわれないものを無条件で肯定する」癖があり、「過去よりも未来よりも今を楽しむ」が基本姿勢なのは、そのためだ。いくつになってもそうありたいと思う。

まさかロックンロールが認知症ケアに役立つとは思いもしなかった。老人ホームでは、夜中に「村の祭りじゃ」と徘徊を始めるおじいさんや、自分の便を団子状に丸めて介護職員に投げてくるおばあさんがいる。そのような常識にとらわれない認知症の人の行動に、僕はつい「いいね!」と思ってしまう。限りなくロックを感じる。もちろんイラッとすることもあるが、心の中で楽しんでいる自分がいるのだ。

多くの人々は認知症になることをつらく悲しいことだと思っている。認知症の人は記憶障害や見当識障害などの中核症状があるため、介護者からするとおかしな行動をとることがある。 しかし、介護の仕事をしているうちに、そのような症状があっても、周囲の関わり方によっては心を通わせることができると気付いた。今を楽しめるのだ。これは大きな希望だった。

ぼくがぼけたらロックンロールを鳴らしてほしい。認知症になるとできないことが増えたり、ぼけを正されたりして、気持ちがむしゃくしゃするだろう。それらの感情は、往々にして徘徊や暴力などのBPSD (行動・心理症状)として表れる。 しかし、ロックンロールはそれらを「表現」として昇華させてくれるのではないか。 認知症になったら、踊らせてくれ。今を楽しませてくれ。間違っても抗精神病薬を飲ませないでくれ。認知症の人に求められるのは処方箋ではなく、アートなのだ。