コラム

「一日一題」山陽新聞夕刊掲載

文:菅原直樹

OiBokkeShiの公演では、認知症の奥さんを岡山市南区の自宅で介護している90歳の岡田忠雄さんに出演いただいている。高齢の俳優との舞台作りは刺激に満ちている。

OiBokkeShiを立ち上げた2年前に出会い、今では〝看板俳優〟だが、初回公演では、とにかく岡田さんの健康状態に気を使い、なるべく身体的負荷をかけないように心掛けた。

劇団の中には、走り回ったり、大声を出したりする演出を特徴とするところもある。しかし、岡田さんにそのような演技を求めたら、おそらく死んでしまうだろう。稽古場へは劇団員が送迎し、覚える必要がないせりふ(岡田さんがよく話す内容)を台本に組み込み、休憩も多めにとることにした。

このように体に負担がかからない稽古を徹底したのだが、それでも気掛かりなのは健康状態だった。男性の平均寿命を8歳も超えた老人との舞台作りだから、いつ何が起きてもおかしくない。「もしかしたらこの作品が遺作になってしまうかもしれない」と、つい縁起でもないことを考えてしまう。代役を立てようかとも思った。

しかし、稽古を続けていくうちに、先のことを心配するよりも目の前のことを楽しもう、と意識は変わっていった。それは「岡田さんは常に今この瞬間が一番いい状態だ」ということに気づいたからだ。明日はさらに老い衰えてしまう。今を共に楽しまなくて、いつ楽しめるというのか。

現在、第3回公演に向けて準備中だ。関係者はみな、岡田さんが出会った頃に比べて若返ったと驚いている。どうやら演劇は人を生き返らせる力を持つようだ。次回公演では、岡田さんは殺陣と濡れ場に挑戦することになっている。