コラム「老いと介護の舞台にて」

コラム

第2回「老いと演劇のワークショップ」

文:菅原直樹

認知症介護に演技は役に立つ。この発見を多くの人々と共有するためにどうすればいいのか。僕は演劇ワークショップを通じて、多くの人々に実際に演技を体験してもらおうと考えた。

ワークショップでは、参加者にこんなやりとりを即興で演じてもらう。介護職員役の「ご飯の時間ですよ」という声かけに、「主人と出かける用がある」と答えるおばあさん。認知機能の障害によって、亡き夫が生きていると思い込んでいる設定だ。

介護職員役には2通りの関わり方をしてもらう。まずは「ご主人は亡くなってますよ。それよりもご飯です」という、認知症の人の言動を否定する関わり。自分の言動を否定された上に相手の都合を押し付けられると反発したくなるようで、おばあさん役は「いや、主人は生きています。何言ってるんですか」と言い返す。こうなると、お互い意固地になっていく。

次は、肯定する関わり。「あぁ、それは楽しみですね。そしたら出かける準備をしましょうか」。現実ではありえないことでも演技で受け止める。その上で介護職員役が「ご主人が来られる前にご飯はいかがですか」と声かけをしてみる。おばあさん役は「これだけ私の言うことを聞いてくれるのなら、この人の言うことも聞いてみようかと思った」と感想を語る。

実際に演じることで認知症の人の気持ちを疑似体験できる。そこから認知症の人とのよりよい関わり方が見えてくる。

演劇という表現形式の特徴は、俳優と観客が時間と空間を共有して共に楽しむこと。認知症の人の言動を否定したり、失敗を責めたりするのではなく、介護者が演技をすることによって、認知症の人といまここを楽しむことができる。演劇には介護を豊かにする知恵がつまっている。