コラム「老いと介護の舞台にて」

コラム

第6回「介護職員の創造的な仕事」

文:菅原直樹

「老人ホームは舞台だ、お年寄りはみな俳優」。介護現場で働き始めてから、そう思うようになった。

老人ホームのお年寄りは何らかの役を求めている。これまでの人生で学生役やサラリーマン役、父親役など数々の役をこなしてきた。しかし、定年退職をして、認知症を患い、老人ホームに入所し、だんだん役を奪われてしまった。それでも人は生きている限り何らかの役を求め続ける。

介護職員の主な仕事は、食事、排せつ、入浴の介助。一方で、そのお年寄りに合った役を見つけることも大切な仕事なのではないか。お年寄りの人生のストーリーに耳を傾けて、今の状態を把握して、そのお年寄りに合った役を見つける。これはとてもクリエイティブな仕事だ。人生は十人十色だから、マニュアル化することはできない。

そういった意味で、介護職員は演出家に似ている。演出家の仕事は、ストーリーを読み解き、俳優に役を与え、小道具や舞台装置など環境をそろえ、俳優から生き生きとした演技を引き出すこと。

認知症の人も自分に合った役を見つけると、途端に輝きだす。町議会議員を長年勤めていたおじいさんはマイクを握ると流ちょうな演説を始め、農業をしていたおばあさんは畑仕事をする介護職員を手厳しく指南する。介護職員が驚くような身体能力や認知機能を発揮する。

お年寄りのそういった姿を見ることが、介護職員のやりがいなのだろう。認知症になったり、障害があったりして、「もう生きていたくない」とふさぎ込んでいたお年寄りが、何かをきっかけに「もう少し生きてみようか」と気持ちを新たにする。

お年寄りという俳優と、介護職員という演出家が創造的に関わるとき、老人ホームが豊かな色彩を持った舞台になる。