
コラム
第9回「出会い直し新しい世界を」
文:菅原直樹
劇団「オイボッケシ」の看板俳優、岡田忠雄さんと夢の話で盛り上がった。岡田さんは毎晩、夢の中で30歳になっているという。実際は93歳なのに…。
なるほど。お年寄りは、社会生活が求める「お年寄り」役を演じていて、僕はそれにだまされてきた。孫を前にした「優しいおじいさん」も、席を譲ってもらう「か弱いおばあさん」も、あれは全部演じていて、実はみんな若いのではないか。
そう考えると、老人ホームで出会った認知症の人たちが若さを感じさせるのも納得する。母親の帰りを待つおばあさんは子供のようだったし、介護職員に恋したおじいさんは青年のようだった。
認知症を発症することで「お年寄り」役から解放されたのではないか。その姿は、周りを驚かせるけど、考えようによっては、おかしなことではない。それがありのままの姿なのだから。
次回作では、岡田さんに30歳の役を演じてもらおうかと考えている。夢の中だけでなく、舞台の上でも、30歳になってもらう。つまり、岡田さんは舞台に立つことで、ありのままの姿になる。
演劇という表現形式の特徴は、「出演者が、社会生活で求められる役を脱ぎ捨て、虚構の世界で出会い直す」ことだ。共演者のほとんどは、岡田さんの孫くらいの年齢なのだが、そんな社会生活が求める役とは関係ない。何歳にでもなれるし、何者にでもなれる。みんなで新しい世界をつくり上げる。
認知症ケアでも、社会生活とはまた別の世界で出会い直す機会が求められている。「介護職員」「息子」「嫁」等の社会生活が求める役を脱ぎ捨てて、認知症の人が見ている世界に飛び込む。世界が一つだけでは認知症の人も介護者も息苦しくて窮屈だ。毎日、出会い直して何回でも新しい世界をつくり上げていこう。
