
コラム
第10回「閉塞した時代の空気 吹き飛ばせ」
文:菅原直樹
老いることは辛いことの連続だ。足腰が弱くなり、物忘れが多くなり、親しい人と死別する。前向きに老いるなんて簡単なことではない。しかし、劇団「オイボッケシ」の看板俳優である岡田忠雄さんを前にすると考えは覆される。
岡田さんと演劇の出会いは、小学4年生のときだ。親から盗んだ金で演劇を観て以来、93歳になった今でも演劇に取り憑かれている。
岡田さんは、いたずら小僧のままだ。老人の格好をしたいたずら小僧なのではないかと思うことが多々ある。
岡田さんは耳が遠い。しかしある時こんなことを漏らした。「耳が遠いのは演技なんです」。まさかと思ったが、言われみれば、都合の悪いことはいつも聞こえていない。
旗揚げ公演の本番直前、岡田さんの実のお姉さんが亡くなった。僕らは真っ先に公演中止を考えたが、岡田さんは「それはダメ!」と僕らの言葉を突っぱねた。駄々をこねる子供のように頑なな態度だった。舞台に立つことで、お姉さんにお別れを言おうとしたのだ。
去年、岡田さんは脳梗塞を患って入院した。心配して見舞いに行くと「このままでは死ねません。生前葬がしたい」と話し出し、いつの間にか次回公演の打ち合わせになっていた。
僕らは高齢の岡田さんと恐る恐る演劇を作ってきた。93歳だから何が起こるかわからない。しかしそんな心配をよそに、岡田さんは老いにまつわる困難を次々と演劇に結びつけていく。老いに怯えているのは、むしろこちらの方なのだ。
やりたいことを貫く。岡田さんは命をかけて僕らにそれを伝えている。
今の世の中、明日に希望が持てないというのは若者も同じだ。こんな時代だからこそ、老いと向き合う人々に閉塞した時代の空気を叩き壊してほしい。
